東アジア恠異学会第112回定例研究会

本会大野裕司が8月6日(日)の第112回定例研究会にて
「中国最古の妖怪撃退マニュアル—睡虎地秦簡『日書』詰篇  説明体系としての詰篇とその妖怪(鬼)」
と題して発表を行います。
佐野誠子先生による術数に関するご発表「術数と志怪——『天地瑞祥志』における志怪引用の検討」
もあります。
ご参加おまちしております。

以下は東アジア恠異学会様HPより転載です。
http://kaiigakkai.jp/invitation.html

東アジア恠異学会第112回定例研究会
 日時:2017年8月6日(日)13:00〜
 場所:ウィングス京都
    http://www.wings-kyoto.jp/about-wings/access/

○「術数と志怪——『天地瑞祥志』における志怪引用の検討」
 ー佐野誠子氏(名古屋大学准教授)

【要旨】
讖緯思想、術数思想の流行期と六朝志怪が書かれた時期は平行する。しかし、両者の間での交わりというのは、思われているよりも少ない。また術数の立場からは、志怪という資料をどのようにとられていたのだろうか。 唐代はじめ薩守真によって編まれた天文類書『天地瑞祥志』には、六朝志怪からの引用が多数ある。 類書の編纂は、決して全てを白紙の状態からはじめるものではない。既存の類書などを参考にし、新たに作られるものである。『天地瑞祥志』における、志怪引用がある箇所、今回は、第十四と第十七を対象として、引用される志怪資料の出処や配列の意味を考え、術数という立場からみた志怪の意味を考えてみたい。


○「中国最古の妖怪撃退マニュアル—睡虎地秦簡『日書』詰篇  説明体系としての詰篇とその妖怪(鬼)」
 ー大野裕司氏(大連外国語大学外籍教師)

【要旨】
 発表者はかつて『戦国秦漢出土術数文献の基礎的研究』(北海道大学出版会、2014)において戦国秦漢時代の墓地等から出土した術数(占術)文献を分析した。拙著の分析の方法と結論を簡単にまとめると、次のようになる。これまでに出土した術数文献は相当な数量・種類におよぶが、その中で、いわゆる『日書』と呼ばれる書籍が圧倒的に多い。そこから『日書』を当時の術数の代表とみなし、『日書』の特徴・性質をもって当時の術数の特徴(思想)とした。そして『日書』の特徴の検討を通じて、戦国秦漢時代の術数は「天(天道)の規則的・循環的運行を把握することで、凶を避け吉に趨くことを目的とする」(P211)ことを明らかにした。要するに出土術数文献≒戦国秦漢時代の術数≒『日書』というかなり強引な議論ではある。
 さて、この『日書』は、後世の「通書」、日本でいう運勢暦・開運暦の類に相当し、択日(日取り・日選び)を中心としつつも各種雑占などの雑多な内容をも含む。しかしだからといってこの雑多な内容すべてが択日と無関係だとみなすのは早計である。拙著では、先行研究においては択日とは無関係な儀礼だとみなされてきた『日書』(睡虎地秦簡『日書』および放馬灘秦簡『日書』)中にみえる禹歩を伴う儀礼が、択日と密接に関連した儀礼であったことを明らかにしている(第二部第三章)。これは、先行研究では『日書』が術数文献であるという、その性質を無視した議論が行われてきたためであり、そのため『日書』中の各内容に関しては、今後、術数という視点から再検討して行かなくてはならない。
 本発表で検討の対象とする睡虎地秦簡『日書』詰篇(拙著では「詰咎篇」と呼称しているが同一)もそのような内容である。先行研究はそれなりにあるのではあるが(例えば日本のものでは工藤元男「睡虎地秦簡「日書」における病因論と鬼神の関係について」『東方学』88、1994。大川俊隆「雲夢秦簡『日書』「詰篇」初考」『大阪産業大学論集 人文科学編』84、1995)、どれも詰篇と択日との関係についてはまったく考慮されていない。
 この詰篇は『日書』中の雑多な内容(拙著の言葉では「非択日部分」)の中でも最大の分量を有する(全71条)。その点だけから考えても『日書』の本来的性質と、つまり択日と無関係な内容にこれだけの紙幅を取るとは考えがたい。なので、本発表では、詰篇がなぜ択日書である『日書』に書かれているのか、つまり『日書』中における詰篇の意義について考察したいと思う。実際のところ、拙著においてもすでに詰篇については言及してはいるが(第二部第一章)、行論の都合のためほんの少しだけ紹介するにとどまっており、その内容に踏み込んではいない。そこで本発表では詰篇の文面つまり、種々の妖怪退治・祓除の方法についての文面を読み解きながら、詰篇の存在意義・存在理由について考察したいと思っている。
 またその際、最近、佐々木聡『復元白沢図 古代中国の妖怪と辟邪文化』(白澤社、2017年)によって紹介されたことで研究者以外にもその存在が浸透しつつある『白沢図』『白沢精怪図』などの後世の文献と比較することで詰篇の時代的特徴をも明らかにしたい。



なお、事務局委員の佐々木聡氏より、大野裕司先生のご発表に関係する書評を
ご紹介いただきましたので、リンクをはっておきます。ご参照ください。

佐々木聡書評(『人文学論集』34、2016)
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/handle/10466/14941
池澤優書評(『東方』412、2015)
http://www.toho-shoten.co.jp/export/sites/default/review/412/toho412-03.pdf